勝手気ままにクラシック
2001年9月22日


テロ事件とエルガーのチェロ協奏曲

 9月11日夜、会社から帰ってテレビをつけると、とんでもないことが起きていた。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が激突する映像が繰り返し流された。あまりの壮絶さに、背筋が寒くなった。あれから10日あまり経った。すべての機能が停止したように見えたアメリカも徐々に復興へ向けて動き出している。だが、問題はこれから。アメリカが報復活動をどこまでやるかだ。6000人以上の尊い命が一瞬にして奪われた怒り、悲しみは計り知れないが、これ以上無駄な犠牲者を増やすことだけは避けたい。

 話変わって、19日。N響の定期で広上淳一が登場し、マーラーの巨人とソリストにヤーノシュ・シュタルケルを迎えてのエルガーのチェロ協奏曲をやるというので、FMの生放送をエア・チェックする。ところが、「シュタルケルさんは、先日のテロ事件の影響で日本に来ることができなくなりました。」とのこと。あの事件の影響がここにも及んでいる。シュタルケル氏は今年77歳の老巨匠。どんな演奏を聴かせてくれるか楽しみにしていただけに、誠に残念。代わりに、クラウディオ・ボルケスというチェリストが登場するとのこと。彼は14,15日のN響定期でボッケリーニのチェロ協奏曲を弾いたばかり(これは未聴)で、うまくスケジュールが合ったものだなと思います。
 冒頭の唸るような弦、朗々とした音色、虚飾を排して音楽と向き合うボルケス氏。私はエルガーのチェロ協奏曲はとても好きで、特に第1楽章の悲痛なメロディーには胸をしめつけられます。何もアナウンスはありませんでしたが、ボルケス氏はこの演奏をテロ事件の犠牲者に捧げたのではないかと思います。オーケストラも、聴衆も、そう感じていたと思います。全体を通じて祈りの雰囲気が、会場を満たしていたような、そんな気がしました。(ラジオを通じてですが。)名演だったと思います。
 ラジオでお顔が分からなかったのですが、21日の衛星放送で姿を拝見しました。私は演奏から、もうかなり老年のチェリストかと思っていましたが、まだ新進気鋭の若い方でした。あの若さであんな深い演奏をするとは・・・。注目したいチェリストです。

 このコンサートとは関係ないのですが、近くのレンタル・ビデオ屋で映画「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」を借りていたので見てみました。伝説のチェリストと言われるジャクリーヌ・デュ・プレの人生を描いた映画。全編に彼女が得意としていたエルガーのチェロ協奏曲が使われており、感動を新たにしました。公開当時、あまりにあらわな内容で少々物議をかもしたそうですが、輝かしい演奏活動の裏にあった人間としての苦しみが描かれていて、実に興味深い内容でした。クラシックの演奏家を描いた最近の作品では、「シャイン」がヒットしましたが、あれに比べればずっとよい映画です。(個人的には「シャイン」は駄作だと思います。)
 デュ・プレはすでに若くして亡くなりましたが、夫であったダニエル・バレンボイム氏は指揮者・ピアニストとして現在、活発な活動をしています。映画には若きバレンボイム氏が登場しますが、よく本人が公開を了解したものだと思います。

 さらに余談ですが、ビデオを返して近くの図書館に行ったら、何とシュタルケルのエルガーチェロ協奏曲のCDがあるじゃないですか!迷わず借りました。1992年の録音。スラットキン指揮フィルハーモニア管弦楽団。どちらかと言えば、淡白な音色。大げさに騒がず、一人静かにもの想いにふけるような演奏。スラットキンの伴奏も丁寧なもの。カップリングのウォルトンのチェロ協奏曲は初めて聴きましたが、これもなかなかの力作です。ウォルトンという作曲家、あまり曲を知らないのですが、最近「ベルシャザールの饗宴」という曲をオーマンディ指揮のCDで聴いて、ショスタコーヴィチと共通する天才的な音楽性を感じています。いろいろな曲を聴いてみようと思います。
 
 今週はエルガーのチェロ協奏曲三昧でした。おすすめCDは、もちろんデュ・プレ盤(バルビローリ指揮ロンドン交響楽団/EMI)でしょうか。私が愛聴しているのは、クリーゲル盤(ハラス指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団/NAXOS)です。”デュ・プレの再来”と言われ、濃厚な演奏が魅力的です。私はチェロの曲はそれほど興味はなかったのですが、このクリーゲルを知ってから、彼女の演奏するチェロのCDをせっせと買うようになりました。どれを買ってもハズレがないからです。CDはNAXOSから10枚以上は出ています。ぜひお試しください。


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