11月12日(日)東京オペラシティコンサートホール
北ドイツ放送交響楽団演奏会
指揮:ギュンター・ヴァント
シューベルト:「交響曲第7(8)番」ロ短調D.759<未完成>
ブルックナー:「交響曲第9番」ニ短調
間違いなく今年最も話題となる演奏会の一つ、ギュンター・ヴァントの10年ぶりの来日公演がやってきた。今年88歳となるヴァント、もう日本には来ないと言われていたが、急遽来日が決まった。同じプログラム、会場で今日から3日間。
開場前にはあまり広いとは言えないホールの前が大勢の客でごった返していた。「チケット求む」の紙を持った人も多い。会場に入るとまた行列ができている。プログラムを買う人の行列。1部1000円というからなかなかいい商売(もちろん買いましたが)。
なぜか今日はいつもと違って落ち着かない。自分が演奏するわけではないのに緊張してどきどきする。海外の名門オケを聴くのは滅多にないからか。アシュケナージ指揮ロイヤル・フィルの来日公演を聴いてから10年にもなる。
誰もが本当にステージに現れるのか?という不安を持っていたと思うが、ヴァントはステージに現れた。付き添いの人に抱えられながらの登場であるが、会場はわれんばかりの拍手。最初は「未完成」。低弦に続くヴァイオリンの刻みが美しい。硬く力強いティンパニが印象的。ヴァントの指揮は余計な表情付けは一切なく、質実剛健。ただ私にはどうしてもこの曲があまりピンと来ないのです。あまりに深遠ですべてを心から味わうのはまだ難しいのです。よい演奏だったと思いますが。
休憩をはさんでいよいよブルックナー。弦が美しく、よく揃うこと。ヴァントの指揮ぶりはあまり明瞭なものとは言いがたいが、動きは大きく、まだまだ指揮は続けられそう。指揮台には椅子も用意されているが、座ることはなかった。オケはさすがに長年付き合ってただけあり、ヴァントの意思を100%汲み取っていた。音は重厚だが、厚ぼったくならず透明で、アンサンブルもすばらしくよい。ヴァントの指揮はいつも基本的にインテンポであり、外面的華やかさとは無縁である。したがって、演奏は地味で玄人好みのところがあるが、微妙な音のバランス、僅かなテンポの揺れではっとさせられるところがある。テンポがわりと速いのも特徴。
第2楽章。スケルツォはこのテンポではなくてはと思わせる圧倒的な演奏。ティンパニの威力、金管の咆哮、弦の魔術的な正確な刻み、どれをとっても完璧でもう何も言うことのない演奏だった。第3楽章でも楽員の気合の入れようがひしひしと伝わってきて、ただ聴き惚れるのみ。
期待に違わぬ名演奏であった。ヴァントの指揮はどう表現したらよいか難しいが、ジョージ・セルをドイツっぽくもっと重厚にした感じと言えばよいか。基本的に淡白。だがすべてが考え抜かれ、曲が透けて見えるような繊細さを併せ持つ。
ホルンが最後の音を吹き終え、しばしの沈黙。そしてわれんばかりの拍手の嵐。ヴァントはゆっくりと頭を下げる。一人での歩行は困難で抱えられながら袖に入る。一部の聴衆はスタンディング・オベイション。さらにステージにほうにみんな寄ってくる。客席が明るくなり、楽員がステージを離れても拍手は続き、しばらくするとステージ脇にヴァントが一人現れ、拍手に応えていた(ちょうど袖の上の席だったので私からは見えなかったが)。
決して偶然ではなく、なるべくしてなった名演だったと思う。あのレベルまで到達するのは一朝一夕では無理と思える。88歳にして巨匠が到達した境地を目の当たりにした想いだった。(→これがチケット)
11月18日(土)ティアラ江東
東京電機大学管弦楽団第44回定期演奏会
指揮:家田厚志
ベートーヴェン:「エグモント」序曲
チャイコフスキー:「イタリア奇想曲」
ラフマニノフ:「交響曲第2番」ホ短調作品27
電気大管弦楽団は昨年の11月に続いて2回目。楽しい指揮者が印象に残っている。ティアラ江東は初めて来たが、都営新宿線住吉駅より徒歩5分くらい、ホールはシンプルではあるが、洗練されたしゃれた内装でなかなかよい。
さて、前と同じく演奏前に指揮者の家田氏がマイクを持って登場。「僕は学生の弁護をする目的でいつも話をするんですが」、という前置きで、「団員のほとんどが大学に入ってから楽器を始めている、ヴァイオリンなどは卒業するころにようやくまともに音が出せるレベルになる、今回のラフマニノフは予想以上に難しかった、あまり期待しないでほしい、美しく演奏することは大事なことだが、何よりも美しく演奏しようという心を持って演奏することが大切だと思います。」というお話。
最初はエグモント序曲。急がず慌てずゆったりとした演奏。確かに技術的にはいろいろありますが、手作りの暖かさのようなものを感じました。次いでイタリア奇想曲。冒頭のトランペットはなかなかいい音。普段あまり好んで聴く曲ではありませんが、後半の祝祭的な音楽は何も考えずに楽しめます。切れ味のよいタンバリンがとてもよかった。
後半のラフマニノフ。出だしの低弦がなかなかきれい。そして続くヴァイオリンも美しい。前半よりかなりよい。音がひっくり返ったり、音程が少し狂うこともなくはないが、みんな弾き飛ばすことなく、しっかり弾ききっているところがいい。おそらく「少しぐらい間違ってもいい。それより堂々と自分の音を出そう。」という指導をされているのでしょう。とても難しい曲ですが、全体の流れというか構成感がよく分かる好演でした。何よりも楽員の指揮者への強い眼差しが印象的でした。この指揮者になら全部任せてもいいという楽員の想いを感じました。
それにしてもいい曲ですね、この曲。憂愁の美しさと躍動感を併せ持っていて、有名なピアノ協奏曲第2番にはない魅力がたくさんあります。美しい第3楽章もいいですが、終楽章はいやがうえにも気分を高揚させてくれます。
アンコールでは、ルロイ・アンダーソンの「ブルー・タンゴ」と「ワルツィング・キャット」。私はアンダーソンの曲はとても好きで、どれも聴いていて理屈なく楽しめます。「ワルツィング・キャット」では、猫が犬に吠えられて逃げ出すという描写で終わります。レコードでは犬の鳴き声が録音されていることが多いのですが、さて今日は如何?と思っていたら、人間が吠えました。家田さんは指揮台を下りてしばらく楽員に鳴かせていました。その不揃いぶりに思わず大爆笑。会場も大いに沸きました。
実に実に楽しい演奏会でした。電気大の楽員さんはしあわせものです。あんな楽しい指揮者といっしょにやれるのですから。音楽はこうでなくっちゃ、と思います。家田さんはパンフレットを見るとあちらこちらのオケから引っ張り凧のようですが、それも納得。これからもますますステージで踊っていただきたいものです。
11月23日(祝)文京シビックホール
中央大学管弦楽団第44回定期演奏会
指揮:小松一彦
メンデルスゾーン:序曲「ルイ・ブラス」
ドヴォルザーク:交響詩「英雄の歌」
ブルックナー:交響曲第3番二短調(1889年版第3稿)
中央大学管弦楽団は1997年12月以来3年ぶり。そのときのブルックナー6番の名演はいまもって記憶に残っている。そのとき自分が書いたメモによると、
「もう、びっくりした。これが学生オケか?と思ってしまうくらい堂に入った演奏。音は間違いなくブルックナー。楽員全員がオトの意味を理解した上で音を出しているのには驚いた。ここまでやった指揮の小松一彦の手腕は相当なものだ。技術的にも細やかな表現を出せるだけのレベルに達していた。あれほどの演奏、もう一生聴けないかもしれないと思ったくらいだ。学生オケならではの力強さがブルックナーの音楽の持つ野性味をうまく出していた。」
とある。
今日は同じブルックナーの3番。会場の文京シビックホールは、後楽園駅前の文京区役所と同じ建物にあり、これもわりと新しそうな美しいホール。本当に東京にはいいホールが続々とできた。
まず前半はメンデルスゾーンの「ルイ・ブラス」。それほど面白い曲ではなかったが、演奏は気合が入っており、徹底して練習した跡がうかがえる。つづく「英雄の歌」はドヴォルザークが「新世界から」を書いた後の最晩年の作品。演奏されることは滅多になく、CDも数えるほど。晩年の作とあって、技巧的にもかなり巧みに作られていて旋律も多彩だが、演奏時間は約20分ぐらいあっただろうか、やや冗長な気がした。演奏は力がこもっておりとてもよかったが。
さて、後半。気づいたのだが、このオケはほかのオケと雰囲気が違う。楽員の表情は決して硬くはないのだが、ステージに出てきても隣の人とにこにこおしゃべりをしたりしない。そして指揮者が出くると、すっと全くの乱れもなく立ちあがる。演奏が終わったときも同じ。全員が直立不動で微動だにせず客席の方を向く。おそらく指揮の小松氏の教育によるものだろうと思う。「ステージに出た瞬間から演奏は始まっている。」というようなことを言われているに違いない。確かに見ていて気持ちがよい。
第1楽章。ヴァイオリンが下降音形を刻む。音がくっきりしていてはっとさせられる。そして全奏によって第1主題が高らかに鳴らされる。すごい威力!金管はパワー全開、ティンパニも爆発。弦もよく揃っている。小松氏の指揮も気合が入っており、小節ごとに各パートに指示が飛ぶ。テンポはかなり自在で、第1主題が出てくるところはテンポを落とし堂々と奏される。ブルックナーはこれぐらいやらないと、と思う。第2楽章も美しかったが、やはりテンポの速い第3楽章、第4楽章がこの演奏には合っている。ミスももちろんなくはなかったが、そんなことよりこれだけのレベルの演奏をさせる、そして分からせる小松氏の力は本当にすばらしい。
金管が強すぎる、やりすぎ、等々文句のある方もいたかもしれないが、ブルックナーであれだけ金管を思いっきり吹かせてくれる人はあまりいないのでは。金管の人は気持ちよかったことでしょう。ある意味とても分かりやすい演奏だったが、これはアマチュアならではであり、プロだったらここまで付いてきてくれるかどうか。でも、プロの演奏で小松さんの指揮のブルックナーを聴いてみたくもあります。(来年3月にハンガリーのプラハでプラハ交響楽団を振ってブルックナーの5番をやられるそうですが。)