最近行ったコンサート
2001年10月
- 10月5日(金)いずみホール(大阪)
ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団演奏会
ブルックナー:「交響曲第9番」ニ短調(全4楽章版)
指揮:フィリップ・ヘレヴェッヘ
大阪に出張の帰りにコンサートに立ち寄りました。”ブルックナー9番の全4楽章版、日本初演”と聞いたらブルックナー・ファンなら興味をそそります。
ブルックナーの9番は彼の最後の交響曲で、第4楽章は未完のまま、完成された第3楽章まで演奏するのが長年の常識でした。しかし研究の結果、第4楽章は約20分の曲のうち8割以上はブルックナーの自筆譜が残されていることが判明、研究者(N.サマーレ,J.A.フィリップス,B.G.コールス,G.マッツーカ)により1985年に補筆完成された。その後、インバルやアイヒホルンらにより第4楽章の録音がなされ、その全貌を音で聴くことが可能になりました。
しかし実の演奏のほうはまだまだ第3楽章で終結するのがいまでも当たり前です。今回の演奏が第4楽章の日本初演となるのは少々意外。会場で買ったプログラムにはかなり詳しい解説が付いていましたが、研究者の話として、「(補筆完成された)モーツァルトのレクイエムやマーラーの10番全曲版を演奏するのに、ブルックナーの9番を第3楽章までしか演奏しないのは筋が合わないのではないか?」といった内容が書いてありました。
さて、いずみホールは大阪城の近く、もちろん来るのは初めて。当日券(S席9500円のみ)を買うつもりで窓口に並んでいたら、おばさんが「一緒に来る予定の人がこれなくなったので」とS席のチケットを譲ってくれました。なぜか額面が5000円に訂正されていたので5000円で譲ってもらいました。めちゃくちゃラッキー!当日券狙いで来ると、たまにこういう幸運にめぐり合えます。
ホールは中規模でしょうか、1階席とバルコニー席があります。装飾が重厚で、シャンデリアも豪華。ヨーロッパ的でよい雰囲気のホールです。会場はほぼ満席。楽員の登場から拍手となります。そしてヘルビッヒ氏登場。わりとあっさりとした開始。テンポは速め。しかしこの曲を持って日本に来ただけあって、精緻なアンサンブルは見事です。そしてどのセクションも出過ぎず引っ込み過ぎず、絶妙なバランス。これを聞くと、ほかの演奏は余計なことをしすぎているような気がしてきます。蒸留された水のおいしさと言いましょうか、この曲の生まれたての純な姿を聴く思いがしました。第2楽章終結部は精緻さと迫力が相乗して圧倒されました。第3楽章、トランペットが美しい。最後の終結、普通はゆっくりめのテンポで静かに終わりますが、ヘルビッヒ氏は第1楽章から一貫した速めのテンポで締めくくります。
そして、第4楽章。ティンパニのトレモロに続き、弦楽器が第1主題を予告するような断片を奏でます。全てが破壊されたような印象を与える第1主題。曲はさまざまな様相を呈します。息の長いメロディはもはや登場せず、どこか不安な動機が全体を支配しています。ブルックナーは何を言いたかったのか?耳から聴いた印象のみで判断するのは正しくはないと思いますが、感じたまま私の印象を述べると、第3楽章はやはり旅立ちの音楽だと思います。ブルックナーは自分の死を予感して、自分が神に召されることを意識していたと思います。第3楽章は”ブルックナーの死”の音楽。そして第4楽章は、”神になったブルックナー”とでも言えましょうか。はっきり言って、音楽は複雑で難解です。現世と隔絶した世界を描いた音楽とも言えるのではないでしょうか。ときおり現れるブルックナーの音楽の旋律の断片(テ・デウムやミサ曲、第3交響曲など)は、過去への回想でしょう。ブルックナーは自分の人生を振り返るとともに、自分の死後の世界を頭の中に描いていたのでしょうか。
演奏は密度が高く、完成されたものでした。この4楽章版、今回に限らずこれから少しずつ演奏の機会が増えていけばいいと思います。確かに第3楽章で終わっても音楽上は不自然ではないし、ある意味で完成された姿と言えるでしょう。でも、ブルックナーが言いたいことがまだ先にあったとすれば、それはやはり演奏することがブルックナーに対する礼儀であるような気もするのです(完全な姿ではないにしても)。
実に興味深い演奏会でした。ヘルビッヒとロイヤル・フランダース・フィルの偉業に拍手を送りたいと思います。
余談ですが、第4楽章の第1主題は、フランスの作曲家ピエルネ(1863-1937)が書いたピアノ五重奏曲第1楽章に出てくるメロディと、うりふたつなのです!(エラートから出ている「エスプリ」シリーズ(2枚組2000円)の”動物の謝肉祭〜フランス近代室内楽名曲集”に入っています。演奏はユボー(p),ヴィオッティ四重奏団。問題の箇所は第1楽章の7分54秒〜8分33秒付近。)この曲の初演は1919年。ブルックナーの第4楽章が不完全ではあるが最初に公表されたのは1934年ですから、両者に関係ないことは間違いないでしょう。弦楽器とピアノで何度か繰り返されるのですぐ分かります。全曲で出てくるのはここだけですが、何とも不思議な偶然。興味のあるブルックナー・ファンの方はぜひ!
- 10月28日(日)王子ホール(東京銀座)
KEIO Joint Piano
Recital 2001
(1)ショパン:「舟歌」作品60
(2)ウェーバー:「ファゴット協奏曲」作品75
(3)プロコフィエフ:「ピアノ・ソナタ第7番」作品83”戦争”
(4)シベリウス:「ロマンティックな情景」作品101-5
(5)メリカント:「ロマンス」作品12
(6)シベリウス:「10のバガテル」作品34〜「ハープ弾き」
(7)メラルティン:「悲しみの園」作品52〜「雨」
(8)クーラ:「小さなガヴォット」作品3-3
(9)クーラ:「結婚行進曲」作品3-2
(10)ピアソラ:「ル・グラン・タンゴ」
(11)ヴィラ=ロボス:「ブラジル風バッハ」第1番第1楽章
(12)ヴィラ=ロボス:「ブラジル風バッハ」第5番第1楽章
(13)J.S.バッハ:「半音階的幻想曲とフーガ」BWV903
(14)ショパン:「練習曲」作品25より第1番”エオリアン・ハープ”
(15)ショパン:「練習曲」作品25より第9番”蝶々”
(16)ショパン:「練習曲」作品25より第12番”大洋”
(17)リスト:「メフィストワルツ」第1番
ピアノ:森陽香(1),西山真里(2),本間裕大(3),萩生哲郎(4〜9),菅井彩子(10),田中博幸(13),木村真理(14〜16),黒沢紀子(17)
ファゴット:三徳正裕(2)
チェロ:小林奈那子(10-12),板倉剛,稲畑英之,小口真由,中村征良,西義朗,西田光弘,綿引聡史(以上11,12)
ソプラノ:佐藤奈加子(11)
慶応義塾のOB・OGらによるピアノ・リサイタル。ほとんどの方がアマチュアだが、プロ顔負けの演奏を披露してくれます。ピアノにこだわらず、プログラムも多彩(ここに書き上げるだけでひと苦労でした(^^;))。
全3部で約2時間半のコンサート。(1)のショパンの舟歌、どちらかと言えば男性的で力強いピアノですが、音楽の流れが実にスムーズで、心地よい演奏でした。(2)のファゴット協奏曲はピアノ伴奏版。初めて聴きましたが、軽快で牧歌的、これはよい曲です。ぜひ原曲を聴いてみたい。
(3)のプロコフィエフ。これがすごかった!この”戦争ソナタ”は彼のピアノ・ソナタの中では一番有名だと思いますが、今聴いてもとても斬新で現代的な音楽です。狂気じみた天才性とでもいいましょうか、プロコフィエフと同時代のショスタコーヴィチも天才的な音楽を書きましたが、ショスタコーヴィチがクールな視点で狂気を描いたとすれば、プロコフィエフは狂気そのままを音楽に書きつけたとでも言えましょうか。特に第3楽章は正気の音楽とは思えません。その圧倒的なパワーに聴衆は完全にノックアウト。ピアノを弾かれた本間さん、すでにプロに準ずる活躍をされているようですが、見事の一言に尽きます。
続いては、打って変わって北欧の作曲家の可憐なピアノ曲が6曲。シベリウスはともかく、他の作曲家は恥ずかしながら名前も知りませんでした。それぞれの曲は雰囲気は少しずつ違いますが、どれも独特の”軽さ”,”透明感”を持っているように思います。日本人には懐かしく思えるような、親しみやすいメロディも出てきます。個人的に気に入ったのは(4)のシベリウスでしょうか。最後の(9)は、プログラムをろくに見ずに、「これ、結婚式で弾いたらよさそうな曲だなぁ。」と思ったら、その通り「結婚行進曲」で、なるほどと納得。以上6曲を弾いたのは実は私の弟なのでした...。(お疲れさま・・・。ほかの人にも好評だったみたいだよ〜。)
つぎはまたまた変わって、チェロでピアソラ。これはロストロポーヴィチの委嘱によるものだとか。
休憩をはさんで、8人のチェリストとソプラノが登場。普通はあまり見られない珍しい光景です。(11)はソプラノが付くんですね。これが、実にすばらしかった。ソプラノの佐藤さん、桐朋学園の声楽家を首席で卒業されたそうです。最初は、「アー」というヴォカリーズで始まりますが、最初の一声で「きれいな声!!」と思いました。澄んでいて、しかも力強く、安定感のある声。そればかりでなく、実に雰囲気のあるお声なのです。メロディもそうなのですが、体の中から声といっしょに、悲しさをたたえた鋭いメッセージが聞こえてきます。言葉もないのに、声だけでこれだけの感情を表現できるとは!!人間の声の偉大さに初めて気づいたような気がします。リサイタルがあったらぜひ行ってみたいです。(13)のバッハ。これは彼が書いた音楽の中でも最も厳格な部類の音楽に入るのでは。哲学的というか抽象的というか。田中さんは力強く、正確なピアノを披露されました。あの少し暗く、ひんやりとした雰囲気はバッハ独特のものという感じがしました。
続いてショパンの練習曲を3曲。(14)はとても好きな曲です。ピアノの木村さんは、心をこめて大好きなショパンを弾かれました。最後はリスト。やっぱりすごい、リストは。何という超絶技巧!ピアノの黒沢さんは破綻なく完璧に弾きます。これだけ弾けたら、そうとう快感なのでは。見事しか言いようがなく、聞き手は唖然とするのみ。
さすがに全部聴いたら軽い疲労感を覚えましたが、多彩な曲とともに、演奏者それぞれの個性もかいま見え、飽きさせないプログラムで楽しめました。お客さんが少なかったのが少し残念ですが...。
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