尾瀬の旅


日 程
2000年8月15日(火)〜8月16日(水)

旅の記録

8月15日(火)
〜序〜
 去年の夏休みは北陸に行った。黒部峡谷、富山、金沢、輪島、永平寺、東尋坊などをまわった。私は暑いの嫌いなので、夏の旅行というのはあまり気が進まないのだが、ずっと電車に乗っているとか、すずしい高原に行くのはいい。
 今年は、特にどこに行くという計画は立てていなかったのだが、何だか都会を離れて思いっきり自然の中に浸ってみたいという気がしてきて、9年ほど前に家族で行って感動した尾瀬にまた行ってみることにした。
 前回は、那須、塩原をまわり、会津口の尾瀬御池ロッジで1泊、翌日車で沼山峠駐車場まで行き、そこから尾瀬沼を1周し、再び御池ロッジ泊。帰りは銀山平、奥只見スカイラインを通って越後川口に出て帰った。今回は逆の形で沼山峠まで行ってみることにした。
 
〜出発〜
 8月15日(火)、本当は昨日出発の予定であったが、週末に台風が襲来したので1日延ばした。朝一番の横浜線に乗り、東京駅に向かう。越後口といわれる奥只見から尾瀬に入るコースはかなりマイナーである。というのは、公共の交通機関を利用する場合、コースはもちろんスケジュールもほぼ1つに決まってしまうからである。そのコースとは、東京発6:08上越新幹線「あさひ301号」で浦佐着7:38、越後交通バスで浦佐発8:00、奥只見湖着9:15、9:25奥只見観光の船に乗り換え尾瀬口着10:05、10:10発の会津バスに乗り換え、11:10沼山峠着となっている。
 お盆期間中とはいえ、帰省のピークは過ぎ、始発ということもあって、新幹線は楽に座れた。それにしても新幹線は速いものだ。高崎からわずか26分で谷川岳を越えて山霞の漂う越後湯沢に着いてしまうのだから。浦佐駅は新幹線停車駅とはいうものの、さびしい駅で、もうとっくに朝になっているにもかかわらず駅のソバ屋もキオスクも開いていない。駅前にかろうじてコンビニがあるのが救いである。
 奥只見行きのバスに乗ったのは全部で8人。けっこうくたびれたバスだが、勾配をぐんぐん登っていく。途中から奥只見湖建設のために造られた奥只見シルバーラインに入る。ここは全長22kmのうち18kmがトンネルである。それにしても走っても走ってもトンネルが続く。よくもまあこれだけ掘ったものだ。昭和46年に開通したそうだが、現在は無料で通行できる。ようやく視界が開け、終点に到着。これだけ乗って900円は安いだろう。
 バスを降りると「尾瀬へ行かれる方はこちらです」との案内に従い、入り口で100円を払うと小さい2両連結の箱の乗り物に乗せられる。スロープカーというらしいが、構造は1本のレールに乗って進むモノレールと同じようなもの。車体が傾斜しているのはケーブルカーのようである。発車するとぐいぐい勾配を上がり、2分もたたずに終点。遊園地の乗り物のようであるが、高低差は結構あるのでありがたい。電源開発公社が運営しているらしい。
 これでダム湖と同じ高さに到着。船着場はすぐそば。尾瀬口行きの船に乗ったのは8人。いつもこれくらいなのだろうか。奥只見ダムは新潟の田子倉ダムに続き日本で2番目の発電量を誇り、日本の電力の約20%を賄うという。風景に特におもしろいものはないが、静かな湖を走るの気持ちがいい。天気はところどころ青空が見えるが、曇りがち。
 尾瀬口の船着場ははしけが1つあるだけの実に簡素なもの。遠くから見たらボートにしか見えなかった。案内もなにもないので、何も知らない人には全く分からないだろう。バス停の案内もなく、同じ船に乗った人が「あ、あれだ」と言ってくれたおかげで迷わなかったが・・・。
 5分ほど待つと、予定通りバスが現れた。狭い道なのでマイクロバスかと思ったが、ちゃんとした大型観光バスである。このバス、予約制となっているので予約がない日は走らないという。そういうバスなので、行き先表示もなく、運賃表もなく、車掌さんが行き先を確認して料金を徴収するようになっている。沼山峠までは1500円。
 山の中の小道を進んでいく。山の強い香気が窓から入ってくる。山に来たという実感が沸く。10:50、尾瀬御池ロッジの立派な建物が現れ御池着。現在、沼山峠まで一般車は通行規制で入ることができなくなっており、マイカーで来た人はすべてここでバスに乗り換えるようになっている。このバスにもマイカー組みが乗り込みほぼ満席となる。15分ほどで終点に到着。

〜尾瀬へ〜
 休憩所で用をたし、いよいよ登山道に入る。しばらく軽い登りが続く。「こんにちは」のあいさつで山に入った気分になる。20分ほどで沼山峠の展望台に着く。尾瀬沼が見える。空は明るいが時折日がさす程度である。歩くにはちょうどいいが。そしてまもなく下り坂が終わり、大江湿原に入る。この広さ、開放感、尾瀬に来た実感が沸く。花の盛りは過ぎたようだが、コバギボシ(小葉擬宝珠)、ヤナギラン(柳蘭)、コオニユリ(小鬼百合)、ミヤマアキノキリンソウ(深山秋の麒麟草)、などがよく咲いていた。
 峠から1時間ちょっとで今日泊まる予定の長蔵小屋に到着。まずは食堂で腹ごしらえ。食堂の裏から見る尾瀬の何と美しいこと。ここはビュー・ポイントである。いったん、小屋に荷物を置き、散歩に出かける。まだまだ日暮れまでは時間があるので尾瀬沼を1周する時間ぐらいはあるのだが、なれないキャラバンシューズをはいてきたためすでに靴擦れで足が痛く、あしたは尾瀬沼の正面に見える燧ケ岳(標高2356m)に登りに行く予定にしているので、大事をとって近くの三平下まで往復するだけにする。途中で見え隠れする燧ケ岳が美しい。
 午後3時、日帰りのハイカーたちもほぼ帰っていって、人影もだいぶまばらになった。長蔵小屋へ戻る。4時からさっそく風呂に入る。小さな風呂だが、ちょうどいい湯加減。ただし環境保護のため石鹸は使えない。あったまるだけ。5時から夕食。山の夜は早く、朝が早い。鮎の塩焼きそのほかのおかずと御飯、味噌汁。炊き立てのせいか、水がいいせいか、御飯がたいへん美味く、おかわりまでして腹が膨れた。
 夕食後、再び外に出て、まだ明るい中を散歩する。日が暮れてきた。尾瀬沼に面するボート乗り場にまわると、雲間から陽の光が漏れ、湖面を照らしている。空にはまだ青い色が残り、湖面をうっすらと染めている。わたしは刻々と移り変わる夕景を眺めていた。そのうち散歩をしていたほかの人たちも夕焼けに惹かれて集まってくる。結局、空から赤い色が消えるまでそこにいた。気づくと周りには誰もいなかった。自分は相当な夕焼け好きだなと納得する。いいものを見た。毎日こんな夕焼けを眺めていたら、人生観変わると思う。
 湖岸を離れ、小屋に戻ろうとすると、向かいの尾瀬ビジターセンターで、「7時からスライドショーを上映します。」との案内があったので、ちょうどよいと思い入ってみる。今日のテーマは尾瀬の植物ということである。解説をしてくれるのはセンターのサブレンジャーの方。大学生のアルバイトというが、お話はなかなか手馴れたものでユーモアを交えて花の写真、名前の由来を説明してくれる。勉強になったが、肝心の花の名前はすぐ忘れてしまった。
 今日泊まるのは2段ベッドが4つある部屋だが、入っているのは3人。一人は大学生くらい、もう一人は40代くらいのカメラと三脚を持っているおじさん。夜、月を撮ってくるといってまた出て行かれました。まだ8時半だが、眠くなったので就寝。

8月16日(水)
〜燧ケ岳へ〜
 6時に起床。すぐに食堂で朝食を取り、6時半ごろ小屋を出発。小屋の前で沸いている湧き水を汲んでいく。天気は晴れではないが、空は明るい。これから目指す燧ケ岳も山頂はややガスっているがほぼ全容が見える。
 しばらく尾瀬沼北岸を進むと長英新道登山口の分岐に出る。ここから4.5km、約3時間の道のりである。最初はほぼ平坦な快適なハイキングコースといった感じで快調に歩く。しかししばらくすると次第に勾配がきつくなってくる。いままで楽した分、きつい。呼吸が苦しい。視界もなかなかひらけず、ひたすら登る。
 途中で、親子連れと一緒になった。小学3年生の男の子とお父さんである。子供は元気だが、お父さんは「もう少し休もう」と言っている。お父さんは30年前にも尾瀬に来てこの山に登ったそうである。「尾瀬はきれいになった。昔はゴミが散乱してたよ。」と言う。この親子とはしばらく休憩のたびに一緒になる。登山道に入って約90分、ようやく尾瀬沼が見渡せるポイントに出た。しかし勾配はいっそう厳しくなる。120分、樹林帯が切れ、高山植物が咲く明るい湿地に出る。頂上もよく見えるが、まだまだ高い。
 がんばって登る。草をかき分け進むと、突然明るいピークに出た。ミノブチ岳の山頂である。眼下には尾瀬沼が一望できる。そして背後には燧ケ岳俎ー(まないたぐら)がそびえている。頂上まではあと少し。途中には残雪が見られた。最後にごつごつした岩場を登り、ようやく山頂にたどり着いた。9:50。
 燧ケ岳はこの俎ー(2346m)と隣の柴安ー(2356m)からなる東北地方以北では一番高い山である。隣の柴安ーまでは20分ぐらいで行けるそうだが、ここから御池に下りる予定にしており、いずれにしてもここまでまた戻ってくる必要があるので、迷ったがあちらはパスすることにする。頂上は時折ガスがかかるが、尾瀬沼(
→写真)、尾瀬ヶ原、そしてこれから下りていく御池方面まで360度見渡せる。頂上には20人くらい。軽く昼飯を食べて、下山にかかる。
 下り始めるとすぐガスがかかる。途中、涸れ沢の石がごろごろ転がるところを下りていく。なかなか歩きにくい。そこを通りすぎると、さらに急な樹林帯の中の岩場を一歩一歩下りていく。時折、これから下りていく熊沢田代の湿原と木道が見えるが、なかなかたどり着かない。まだかまだかとおもうと、ようやく出た。ここまで約60分。
 ちょうど湿原の真ん中にはベンチがあり、休憩。居合わせたおばさんとおじさんからミカンとトマトをいただく。湿原は気持ちよかったが、そこを抜けると再び悪路。ぬかるんだ岩場をひたすら下りていく。熊沢田代から40分、広沢田代の湿原に出る。そこを抜けるとまたまた急な下り。さっきよりもいっそう厳しい。さすがに足に疲労がたまってきた。岩場を下りきり、車の音も聞こえてくるがなかなか樹海を出ない。広沢田代から約60分、ようやく尾瀬御池ロッジの見える登山口まで下りた。13:50。足はもうくたくた。

〜帰る〜
 14:30の会津高原駅まで行くバスがあるのでそれに乗って帰る。山ともうお別れかと思うと名残惜しい。途中の桧枝岐あたりは、旅館やキャンプ場が並び、なかなか雰囲気よさそう。この辺でゆっくりしてみるのもいいかもしれない。16:20頃、野岩鉄道会津高原駅に到着。ここからは東武浅草行きの直通の快速が走っている。16:58発。4両編成だったが、思いのほか車内は混んでいる。途中の鬼怒川温泉、下今市でたくさん乗り、立ち客も出るほどの満席となった。外はいつのまにか雨になっていた。20:03、浅草着。歩くのがつらかった・・・。
 たまには本当の自然の中に見を浸すべきだ。都会は驚くほど人工物に満ちているが、よく人間はずっとそういうところにいても生きていけるもんだと逆に感心してしまう。人間の営みに関わらず、日は昇り、日は沈んでいく。今日も尾瀬沼を美しい夕日が染めているだろうか。

〜おわり〜



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